みんな元気か、トミー(@TomoyaTommy1203)だ。
太宰治に対する一般的なイメージは暗い、自殺というネガティブなキーワードが出てくるように思う。
なにせ有名な作品が「人間失格」「斜陽」だから無理もないし、当人も自ら命を絶っているのだからね。
しかし太宰文学の大きな特徴の1つに、人間の滑稽さ、弱さに対する絶妙のユーモアのセンスがある。
太宰治の笑い
太宰の笑いの要素の1つに自虐があり「それ考えすぎやろ」的な今でいうブラマヨ的面白さがある。
それをとてもよく表しているのが今日紹介する畜犬談(ちくけんだん)という短編小説だ。
短いのでゆっくり読んでも30分くらいで読める作品なんだけど、これがめちゃくちゃ面白い。
太宰治は国語の授業で走れメロスを読んだくらい・・・という人で、なにかおすすめはないか?
と聞かれたら、まずはこの畜犬談を薦めることにしている。
畜犬談のあらすじ
作品は犬を極端に恐れ、忌み嫌う主人公「私」と、いやいやながら飼うことになってしまった野良犬「ポチ」との顛末を描いたものだ。
もちろんあの文学の天才、太宰治が単純に人間と犬のハートフルなヒューマンドラマを書くわけはないよね。
犬と人を媒体として人間の心の本質や社会の変化など、より大きなテーマを描こうとしているのは言うまでもない。
しかし本当に優れた芸術作品というのは、そいういう示唆や暗示を抜きにしても人を楽しませることができる。
この畜犬談はまさにそんな芸術作品としての示唆とエンターテイメントを兼ね備えた傑作なんだ。
この「私」と「ポチ」が何のメタファー(隠喩)かというのは、いろんな解釈があっていいと思うし、それが人それぞれの作品の楽しみ方なので、これが正解というのはない。
ポチを社会的弱者、主人公を世間のこずるい小市民の代表とみなしてもいいし、ポチを太宰治自身とみなしてもいいし、両方太宰でもいい。
犬がきらい宣言
前半は友人が噛みつかれた例などを挙げながら、いかに犬が凶暴・凶悪な生き物であるか、犬への憎悪の気持ちを切々と綴っている。
その描写が実によどみなく、かつ真剣すぎるので笑えてくる(笑)
そして奇しくも、やたらに野良犬が多い山梨県の街へ引っ越してしまった主人公は、なんとか噛みつかれないよう、いろいろな策を講じることとなる。
なぜか犬を飼うことに
主人公は野良犬に対し、ブラマヨの吉田への「考えすぎやろ!」というツッコミくらい警戒するんだけど、散歩中にある1匹の野良犬に好かれ、家に転がり込まれてしまう。
一緒に暮らしてはいるが、(表面上は)心が通い合うことはなく、月日は流れ主人公は東京に戻ることになる。
主人公夫妻は残酷にもポチを置き去りにすることに決めるが、そのとたん、ポチはひどい皮膚病を患ってしまう。
ポチの悪臭と皮膚病によるひどい外見、なかなか予定通り進まない引っ越しなどが重なって、ついにポチを毒殺しようと決意する鬼夫婦・・・
結局毒は効かず、主人公はポチを東京に連れて行こうと心を決めるのだった。
太宰治の芸術観
「弱者の友なんだ。芸術家にとって、これが出発で、また最高の目的なんだ。
こんな単純なこと、僕は忘れていた。僕だけじゃない。みんなが、忘れているんだ。
僕は、ポチを東京へ連れてゆこうと思うよ。友がもしポチの恰好を笑ったら、ぶん殴ってやる。卵あるかい?」
「ええ」家内は、浮かぬ顔をしていた。
「ポチにやれ、二つあるなら、二つやれ。おまえも我慢しろ。皮膚病なんてのは、すぐなおるよ」
「ええ」家内は、やはり浮かぬ顔をしていた。引用元:畜犬談 – 太宰治
というまさかの展開で作品は幕を閉じる。
この最後の主人公の言葉のように太宰治の芸術観をはっきり作品中で表しているケースは珍しい。
もし主人公が世間では善人顔で過ごしている悪の代表であるなら、最後でポチを救うという展開はこの作品を「甘く」しているという評価もある。
太宰治自身が自分の中にも潜む俗物根性を完全に客観視し、悪として突き放すには「人間失格」の完成を待たなければならない。
最後に
この畜犬談が収載された「きりぎりす」という短編集を、僕は真っ黒になるまで何度も何度も読み返した名作揃いの短編集だ。
もしまだ読んだことがない方は読んでみて欲しい。
また、興味はあるけど昔の文学はちょっと読みにくいなあ・・・という方は名作を朗読してくれるAmazon Audibleで聴くという手もある。
僕も最近登録して、最初は「文学を聴く」ってどうなん?と思っていたけど、無料体験で試してみたらこれが意外とスルスル内容が頭に入ってきて、想像力も刺激されるのでハマってしまった。
ぼくは高校生の頃この畜犬談を読んで笑っていたが、今は涙を抑えることができない。
それはぼくが人間の弱さに共感できるくらい、年を取ったということだろう(笑)
みんなはこの作品を読んで、笑うだろうか?泣くだろうか?
超とんがったダス・ゲマイネも大好きだ