みんな元気か、トミー(@TomoyaTommy1203)だ。
金切り声を上げ、泣き叫ぶだけのファンの前で演奏することに完全に興味を失っていたビートルズは、ついに
もう無理、コンサートツアーには一切出ない
という決断を下す。
普通のロックバンドならここで解散、ジ・エンドとなるところだけど、ビートルズは違ったね。
活動のメインをスタジオでのアルバム制作へ移したビートルズ。
スタジオでのレコーディングが基本的には生演奏の記録の域を出なかった時代の常識を完全に覆し、レコーディング、レコード制作そのものを芸術の域にまで高めたのだった。
ビートルズのメンバーは録音技術の常識や限界など知らないから、音楽的要求の赴くままにプロデューサーやエンジニアに注文をぶつけていった。
無茶ぶりは発明の母
そんな状況の中でアルバム Revolver の製作が開始され、レコーディングセッションはアルバムきっての問題作 “Tomorrow Never Knows” から始まった。
アルバムのレコーディングセッションはジョン・レノンの作品から始められるのが慣例だったようだね。
そしてこの時、ジョンの口からポピュラーミュージックのレコーディング史上最も重要な無茶ぶりが発せられることになる
一回だけ歌うから、それをダブルトラックにできないかな?
同じボーカルや楽器を2つ重ねることで、ピッチやタイミングの揺れを生み、厚みを出すダブリングの手法はそれまでにもあった。
ビートルズも初期の作品でボーカルのダブルトラックを行っている作品は少なくない。
それは当然同じシンガーが2回歌ってそれを重ねるんだね。
しかしジョンは2回同じように歌うのを嫌がったものだから、EMIテクニカルエンジニアのケン・タウンゼントが中心となってこの無茶ぶりを叶えたのだった。
それがADT(Artificial/Automatic Double Tracking)だ!
ADTの詳しい原理の説明は省くけど、2台のレコーダーを使い1度の録音で2つの音像を重ねることができるシステム。
この手法が後のコーラスやフランジャーといったエフェクターを生み出すことにもなったんだ。
以降ジョンはこのADTを「ケンのフランジャー」と呼んでたいそう気に入り、何にでもADTを通したがったそうな。
ADTの誕生以降もADTによる処理と、従来のダブリングの両方が行われていたようだ。
今日はWavesのアビーロードコレクションからこのジョンの愛したADTを再現する、Reel ADTを紹介しよう。
操作方法
トラック(主にヴォーカルトラック)にプラグインをインサートしたら、音源を再生しながら画面上部のルーラーにあるADTをドラッグして動かしてみよう。
-10~-15(ms)か10~15(ms)あたりが推奨値だ。
ADT値のマイナスとプラスはADTシグナルがソース(元の)音源より前に再生されるか後で再生されるかの違い。
聴きながら調整して好みの位置に設定しよう。
次に画面下部にあるLFOを触って揺れを調整してみよう。
LFOの波形やRangeを調整してあまり不自然に聞こえない程度に設定しよう。
Rangeの推奨値は3~8(ms)だ。
揺れを大きくするとTomorrow Never Knowsの後半のヴォーカルみたいになるかもしれないね^^
Varispeedを動かしてみよう。
上げすぎるといわゆるジェット音効果がハッキリかかったような音になるのでほどほどに。
DRVと書かれたノブを回すといわゆるアナログテープ特有のサーチュレーション(信号レベル飽和による歪み)を加えることができる。
これはソース、ADTシグナル別々に調整できるので好みの歪み具合にしてみよう。
ADTとソースのそれぞれのレベルを調整し、両方のシグナルが同じくらいの大きさになるようにしよう。
実際にかけてみると
では最後に実際にヴォーカルトラックにADTをかけてみよう。
まだADTがケン・タウンゼントによって生み出される前に制作されたビートルズのアルバム、ラバーソウルに収録されているジョン・レノンのけだるいヴォーカルが魅力のGirlにかけてみよう。
これがADTなしの本来のヴォーカルトラック
これがADTをかけたトラックだ
蘇る伝説の名機アビーロードコレクション、Reel ADTでした!
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