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【レビュー&解説】Sgt.Pepper’s 50年目の奇跡 歴史的名盤はなぜリミックスされたのか?

      2017/06/01

2017年5月26日、Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Bandの発売50周年を記念して、スペシャルエディションがリリースされた。

 

正直ビートルズのアルバムの中ではラバーソウルやハードデイズナイトほど好きなアルバムでもないし、リミックスっていってもベーシックトラックはトラックダウンされてるから、限界あるでしょ・・・

って感じでイマイチ食指が動かなかったんだ。

 

確かに溢れんばかりのアウトテイク集は、彼らの音楽をコピーしたり研究する人間にとって格好の材料ではあったけど、それにしても18,000円(Amazonで16,000円)は痛かった。

 

そんな感じで発売日まで何度もAmazonの画面とにらめっこしながら、ポチる誘惑に打ち勝ってきたのだった(笑)

 

 

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Apple Musicで入手

そうこうしているうちに5月26日になり、ニュースでも報道があったり、SNS上でも届いただの、開封の儀だの、保存用等に3セット買っただのと、賑わいを横目に、ぼくはApple Musicを覗いてみた。

するとデラックス・エディションとして通常のDISC1とアウトテイク集のダイジェスト版的なDISC2がダウンロードできるようになっているではないか。

 

ダウンロードした後もDISC1はほとんど聴かずに後半のアウトテイク集の方を聴いていた。

「なんや〜A Dayはアンソロジーのやつかー」

なんて言いながら・・・

 

そしてようやくサー・ジョージ・マーティンの息子ジャイルズ・マーティンによる2017年最新リミックスであるDISC1をヘッドホンで聴いたぼくは、予想に反してかなりの興奮状態に陥ってしまった。

 

生まれ変わった歴史的名盤

生まれ変わったというべきか、本来こうあるべきだったと言うべきか、そう思わせるほどジャイルズ・マーチンは素晴らしいミックスを行っている。

今までのステレオミックスはなんだったんだ?という感じである。

 

あの定位の不自然さや、4トラックを使いまわしたがゆえの、マリファナの煙に包まれたかのような音の劣化は昔のレコード特有の味として今まで受け入れてきたけど、ここまで改善できるとは・・・

 

ビートルズのレコーディング音源はどこまで遡って作業ができるんだろう?

それとも最新技術とジャイルズ・マーティンのなせる技なのだろうか。

 

モノラルミックスが基本

昔からサージェント・ペパーをはじめビートルズのアルバムはモノラルミックスがジョージ・マーティン、ビートルズのメンバー立ち会いのもとミックスされた本流で、ステレオミックスはやっつけ仕事的な認識で捉えられてきた。

時代的にステレオで聴ける環境を持っているリスナーのほうが少なかった時代だからね。

 

でも今となってはサージェント・ペパーのような万華鏡のような作品を、広がりのないモノラルで聴くのも本意ではないように思う。

 

今回のリミックスはビートルズとマーチンが本筋とするモノラルミックスを基調として行われている。

つまり、モノラルミックスの意志を受け継ぎつつ、現代のリスニング環境に合わせたまともなステレオミックスにする、というのが目的の1つであるのは間違いない。

 

Sgt. Pepper’sとはなんだったのか?

各曲を詳しく見ていく前に、このアルバムがなぜ半世紀も経った今リミックスがなされ、ビジネスとして成立するほど需要があり、メディアでも騒がれるのか?

あまりご存じない方のためにこの作品の背景を簡単に説明しておこうと思う。

 

コンサート活動の中止

ひたすら叫ぶだけで彼らの演奏をまともに聴いていない観衆の前で演奏することに疲れ果てたビートルズは、1966年8月29日のサンフランシスコ キャンドルスティックパーク公演を最後にコンサートツアーをやめてしまう。

 

この1966年にビートルズがロックバンドであるにもかかわらず、ライブ演奏を一切しないという前代未聞の決断をしたことは、ビートルズヒストリーを語るうえで絶対に欠かせない事件である。

ビートルズで歴史のテストがあるならば、明治維新くらい重要なマイルストーンと言っていい。

1966年8月29日は覚えなければならないね(笑)

 

久しぶりにスタジオに

デビューしてからほとんど休みなくツアー三昧で心も体も疲れ果てていたメンバーは、3か月ほど休養したり、それぞれ自分の好きな活動をしたりして英気を養った。

 

そして11月、再びEMIのスタジオに集まった4人は次のアルバムのためのレコーディングを開始する。

レコーディングはジョン・レノンのStrawberry Fields Foreverから開始された。

 

残念ながらStrawberry~とPenny Laneはレコード会社とのお約束の都合で、先にシングルとしてリリースされ、サージェントペパーには収録されなかったが(本当に残念)本来ならばアルバムに収録されているはずだったのである。

だから今回発売のエディションにもこの2曲のアウトテイクやリミックスが収録されているのだ。

 

アルバムコンセプト

1967年6月1日(これも覚えなければならないw)約4カ月をレコーディングに費やしたアルバムは完成し、リリースされた。

 

ライブをやめたビートルズが覆面バンド、サージェントペパーズロンリーハーツクラブバンドになりすまし、レコード上でライブショーを演じている。

アルバムジャケットにもThe Beatlesという表記は一切なかった。

 

アルバムが持つ世界観、サウンド、ジャケットデザインはロックバンドのアルバムがアートになりえるということを証明していた。

時代を象徴し、後のアートロック、プログレッシブロックといった数々の後継を生み出した画期的なアルバム、それがSgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Bandなのである。

 

全13曲

ではジャイルズ・マーティンの素晴らしい仕事を1曲ずつ見ていこう!

 

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band

これは今回のリミックス全曲に言えることなんだけど、不自然に片寄ったボーカルの定位などは全て解消されている。

 

観衆のざわめきからイントロが始まった瞬間まず驚くのがベースとドラムスの迫力、そして歪んだギターの生々しさである。

 

ポールの右に寄っていたヴォーカルはセンターに補正されていて、ブラスセクションも右だったのがセンターの若干左くらいになっている。

 

ミドルで3声になるパートのヴォーカルは左のみだったのが右からも聞こえるようになった。それによってより厚く、広がりを持ったコーラスが楽しめる。

 

センターにいたドラムスともう一本のそれほど歪んでいないギターは若干左に寄った。

 

Aメロに戻ってから右にある歪んだギターは旧ステレオミックスではかなり引っ込んでいたのだが、定位は右のままでかなりレベルが上がってよく聞こえるようになった。

このギターの音量バランスはモノラルミックスに準拠しているからだろう。

 

バンドはビリー・シアーズを紹介しながら次の曲になだれ込むのだ。

 

With a Little Help From My Friends

ビリー・シアーズの名が呼ばれる、その時の一拍三連のピアノはセンターから若干左に寄せられていて、より存在感が増している。

同じくイントロの時に鳴っているスネアは右よりなのだが、これはセンターに補正。

リンゴのヴォーカルがわずかだが左に寄っていたのがセンターに補正されている。

 

まさにリードベースと言えるポールのベースは定位は右そのままで、音質はよりクリアで躍動感が増している。

今回の新ミックスにおけるベースの扱いは、モノ的ミックスで力強さを出したい場合はセンターに、この曲のようにリード楽器として引き立てたい場合は右に、という定位が貫かれているようだ。

 

ジョンとポールによる追っかけコーラスは前曲のミドルのヴォーカルと同様、左だけだったのが左右に広がっている。

 

Lucy in the Sky with Diamonds

これも前曲から間髪入れずに始まる。

幻想的なキーボードのイントロが曲の印象を決定づけている。

 

イントロが始まった瞬間ぼくはヘッドホンか自分の耳がおかしくなったのかと一瞬思ったが、そうではない。

1音ずつ定位が変わっているではないか。

キーボードの音程に対して物理的な位置をそのまま定位で表しているのだ。

つまり低い音は左に、高い音は右に、という感じである。

これはもう親父譲りのジャイルズの遊び心というしかないね(笑)

 

左によっていたドラムスはきっちりセンターに移動し、サビ前でカウントするかのような3発のタイコの胴鳴り感がすごく生々しい。

Bメロに行く前のジョンのヴォーカルにかかったリヴァーブも増していい感じだ。

 

この曲はステレオミックスとモノラルミックスとでピッチが違い、モノラルミックスの方が若干低いのだが、この新ステレオミックスもモノラルミックスのピッチになっている。

こちらの方がこの曲の幻想的な雰囲気に合っていると思う。

 

Getting Better

旧ステレオミックスはヴォーカルもコーラスもセンターのみだが、新ミックスではもうおなじみのメインヴォーカルがセンターでコーラスは水平に分かれるというスタイルになっている。

 

この曲は特にヴォーカルの処理が気持ちよく、歯切れよく明瞭に聴こえる!

 

Fixing a Hole

この新ミックスでイントロからずっと聞こえるチェレスタが2台であったことが判明する。

旧ステレオミックスでは2台とも左で重なっていたのでわからなかったが、今回左右にわかれたことにより、この曲のイントロにも広がりが増した。

 

左にあったベースは大きく移動し、右へ。

リードギターが右チャンネルのみだったのを、左右に振っている。

 

開始から28秒のところでチェレスタが一拍だけ消えているところがあるが、これは演奏上のミスだろうか?

モノラルミックスでも同じように消えているが、モノラルだからあまり目立たなかった。

今回ステレオにしたために余計目立ってしまっている(笑)

 

She’s Leaving Home

この曲はルーシーと逆で、モノラルミックスの方が半音近くピッチが上で、テンポも速い。

各楽器の音は明瞭になりイキイキしている。

 

まあ特に思い入れもあまりない曲なので手短に(笑)

 

Being for the Benefit of Mr. Kite!

レコードではA面のラストを飾る重要な曲である。

ジョン・レノンによる摩訶不思議なロックで、途中でワルツになったりと、ジョンの曲はドラマー泣かせな曲が多い。

 

イントロから旧ミックスとはまるで迫力が違う。

ブーブーいってる謎の低音もハッキリ聴こえるようになった。

 

右に寄ってたジョンのヴォーカルはセンターへ。

 

今回のリミックスで生き返ったと思う曲ナンバー2だ、1はGood Morning Good Morning

ジョンがサーカスではしゃいでるような姿が目に浮かぶね^^

 

ラストの混沌としたノイズと切り刻まれたオルガンの嵐は、A Day in the Lifeの狂気のオーケストラご陽気バージョンといったところである。

 

Within You Without You

こういう曲はヘッドホンなんかで聴くものではない。

車の中で聴くものでもない。

部屋で瞑想しながら聴くものである(笑)

 

これもShe’s Leaving Home同様定位の修正というよりは、各楽器の音質向上がすばらしい。

部屋で聴いていると目の前で演奏されているような生々しさ。

 

最後の笑い声が音量も上がり、ステレオで左右に広がってたのにはワロタ。

 

When I’m Sixty-Four

左によっていたポールのヴォーカルはセンターに補正。

全体的に真ん中に寄ったモノ的ミックスという印象だ。

これはこの曲が持つ古き良き時代のスタイルを踏襲して、あえてステレオ感は抑えた感じにしたかったんじゃないだろうか。

 

それにしてもなんで昔のステレオミックスはこんなにヴォーカルがどっちかに寄っているんだろう?

 

Lovely Rita

今回の新ミックスでは曲のイントロから「お、違うぞ」となるものが多いが、この曲もアコースティックギターの生々しさに驚かされる。

 

不自然なほど左だったドラムがセンターに補正され、安定感が増している。

 

曲の終わる直前にジョンが言っている言葉は今まで “leave it” と途中からしか聞こえなかったが、今回のミックスでハッキリ “I have ‘em leave it” と聞こえるようになった。

 

Good Morning Good Morning

ジョンの真骨頂、変拍子の塊のような変態ロックで、今回生まれ変わったナンバー1だ!

 

リズム隊の音が頼りなかったのが(新ミックスを聴いた今だから言えるんだけどね)劇的に改善され、強力なブラスセクションと変拍子も相まって、すさまじいくらいの推進力が生まれている。

地鳴りのように鳴り響くベースが圧巻。

 

ほんと旧ステレオミックスのこの曲はスカスカでおもちゃみたいだ(笑)

ジョンの曲の中ではそれほど好きでもない曲だったけど、今回のリミックスで大好きになった。

 

Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band (Reprise)

前曲の動物鳴き声メドレーの最後、ニワトリの「コッコッ」とジョージのギターの音がつながるのだが、これに関してはモノラルミックスはぎこちなく、旧ステレオミックスの方が繋がりはなめらかだった。

 

さすがジャイルズ、この部分だけモノミックスにこだわらず、ステレオミックスの方を採用している。

 

旧ステレオ版もモノ的ミックスでバンドの一発録り感を出し、全てセンターだったのでほとんど楽器の定位の変更はないが、最初のポールのカウントとそれを邪魔するかのようなジョージの ‘nine’ の定位が変わっている。

 

楽しかったライブショーもいよいよ終焉を迎え、最後の最後、アウトロの後ろで旧ステレオミックスではほとんど聞こえなかったポールの雄たけびを聞きながら、聴衆はバンドに喝采を送るのだった・・・

 

A Day in the Life

アルバムタイトル曲の再演で、まるで夢のようなライブショーは観衆の熱狂と共に幕を閉じた。

 

観衆は一気に夢から現実に引き戻され、架空の覆面バンドを演じていたビートルズはそのヴェールを脱ぐ。

 

世紀のアルバムのラストを飾るA Day in the Lifeは聴衆を現実に引き戻すべく、日常を叙事的に歌ったものであるが、曲全体を通してジョンとポールのヴォーカルはどこか夢心地であり、現実味を帯びていない。

 

果たしてライブショーが夢でA Day~が現実なのか?

はたまたライブショーの方が現実で、A Day~はドラッグによる現実逃避の悪夢なのだろうか?

 

この二重構造は曲中でも、ジョンの作ったパートとポールの作ったパートのどちらが夢か現(うつつ)かあいまいになっており、2つのパートをつなぐ完全に統制を失った狂気のオーケストラによって、ぼくたちは不安の底に突き落とされる。

 

最後のピアノ3台によるコードにも救いはなく、永遠に続く無間奈落のような余韻の後、(この時代のレコードは)立ち上がってプレーヤーの針を上げるまで本当に永遠に鳴り続けるインナーグルーヴを止めることによって、ようやく本当の現実に戻れるのである。

 

旧ステレオミックスではジョンのヴォーカルは右位置から始まって徐々に移動し、2番が始まるころにはセンターにいて、最終的には左に行く。

新ミックスではこれも修正され、ヴォーカルは常にセンターになった。

アコースティックギターとマラカス、ピアノは左に、ベースとドラムスは右に、つまりセンターはジョン・レノンのヴォーカルのみ鎮座させることで、魅惑的なヴォーカルがより引き立つことになった。

 

個人的にはこの曲に関しては不安定感を表すためにそのままでもよかったんじゃないかなと思うんだけど、ジャイルズは許さなかった(笑)

 

最後に

長々と細かいことまで書いてしまったが、要はモノラルミックスを基調にすることでオリジナル作品の意志は壊すことなく、ステレオ感で広がりと厚みを持たせ、ビートルズのロックバンドとしての迫力を余すことなく引き出したのが、この新しいサージェント・ペパーなのだ。

 

誤解を恐れずに言うなら、50年経ってようやくサージェント・ペパーは完成した。

そう思わせてくれる素晴らしいリミックスに心から拍手を送りたい。

 

Thanks Giles!!

It was FIFTY years ago today!!

 

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